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Tokyo Stillness
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History, Culture & Artisans 2026.11.06

なぜ日本人は門松を飾るのか。造園職人に聞く、正月飾りと私たちの暮らし

執筆:松井直之(編集部) 撮影:下城英悟 写真提供:株式会社市川造園 東京作業所

なぜ日本人は、松や竹を使った正月飾りを入口に立てるのでしょうか。門松づくりを通じて日本の文化を伝える造園職人・栗原裕也さんに、その歴史や込められた願い、時代とともに変わる門松の形、植物と人々の暮らしの関係について聞きました。

栗原裕也(くりはら・ゆうや)

株式会社市川造園 東京作業所 所長。樹木医。
東京農業大学卒業後、建設コンサルタントを経て造園職人に転身。2019年、市川造園の東京作業所立ち上げに参加。現在は緑地の管理や庭園の手入れに携わるほか、「緑師プロジェクト」を通じて、造園の魅力を伝える活動にも取り組んでいる。

新年の神様を迎える、日本の正月飾り「門松」

門松は、新年に幸福や実りをもたらす「歳神(としがみ)」を迎えるため、家の入口に飾られる日本の正月飾りです。神様が訪れる際の目印であり、神様を迎えるための「依り代(よりしろ)」とも考えられてきました。

その歴史は古く、12世紀の和歌には、門に松を立てて新年を迎える様子が詠まれています。少なくとも900年ほど前には、すでにこうした習慣があったと考えられています。

「今の門松は竹が一番目立ちますが、『門竹』ではなく『門松』ですよね。もともとは松が中心で、時代とともに竹などが加わり、今のような形になってきたといわれています」

冬でも葉を落とさない松には生命力や長寿、まっすぐ伸びる竹には成長や繁栄への願いが込められています。

「形は時代とともに変わっても、植物を使って新しい年の神様を迎えるという意味は受け継がれてきたんです。私はそこが大切だと思っています」

現在では、完成品の購入や専門業者への製作依頼が一般的で、家庭からホテルまで、場所に合わせたさまざまな門松が飾られています。

市川造園では、毎年、門松づくりのワークショップを開催。参加者は職人に教わりながら、松や竹、南天、葉牡丹などを組み合わせて門松を仕立てます。

「皆さん、門松がどういうものかは知っているんです。でも、実際に材料に触ったことがある人は意外に少ないんですよ」

ワークショップには、小さな子どもを連れた家族から、花を趣味にする人、若い夫婦まで幅広い世代が参加しています。

「決まった形を覚えるだけでなく、なぜ松を使うのか、なぜ入口に飾るのかを考えてもらいたいんです。植物や造園の面白さを知ってもらい、職人の仕事の幅広さも伝えていきたいと思って始めました」

都市政策の仕事から造園の現場へ

愛知県に本社を構える市川造園は、2019年に東京作業所を設立。栗原さんは東京農業大学で造園や都市計画を学び、卒業後は都市政策のコンサルタントとして働いていました。

「都市政策も造園も、人の暮らしをよくするという点では同じです。ただ、もっと身近なところで緑と人との関わりを感じたいと思い、造園職人の道を選んだんです」

造園会社で経験を積んだ後、2019年に市川造園の代表に誘われ、東京作業所の立ち上げに参加しました。

「社長が大切にしているのは、造園業でどうやって社会に貢献できるかということなんです。東京のような都市では、職人にできることがもっとあるはずだ、と。それを実践するために東京作業所ができました」

そんな栗原さんが大切にしているのが、伝統と新しい発想の両立です。

「門松には、全国共通の『正しい形』があるわけではありません。地域で手に入る植物や風習によって、いろいろな形が生まれてきました。昔とまったく同じ形を残すだけでなく、背景にある意味を大切にしながら、今の暮らしや飾る場所に合う形を考えていく。それも文化を受け継ぐことだと思うんです」

その考え方は、造園職人という仕事にも通じています。

「昔から受け継がれてきた技術を大切にしながら、新しい考え方も取り入れていきたい。造園職人にも、これからの時代に求められる新しい活躍の形があると思っています」

木を育て、景色をつくる。日本の造園職人の技術

門松に使われる松や竹は、日本庭園でもおなじみの植物です。栗原さんに、そうした植物を美しく整える日本の剪定(せんてい)技術について聞きました。

「日本の庭園って、比較的小さな空間の中に景色が構成されているんです。でも、植物は生き物なので、どんどん成長しますよね。木が大きくなりすぎると、もともと作られた庭の美しさが失われてしまうんです」

例えば盆栽も、枝葉を整えながら樹形を維持する技術のひとつです。

「木は葉で光合成をして、成長するためのエネルギーを作ります。だから葉の量を調整することで、成長の仕方もコントロールできるんです」

さらに、造園職人は木の形だけでなく、空間の見え方も整えます。「透かし剪定」は、不要な枝を間引いて枝葉の密度を調整する技術です。

アメリカ・オレゴン州のポートランド日本庭園。透かし剪定によって枝葉が整えられたモミジ。

「日本の回遊式庭園は、歩きながら景色を楽しむもの。先の景色が全部見えるのと、少しずつ見えてくるのとでは楽しみ方が違います。枝葉を透かして見せたい場所を見せ、隠したい場所は隠す。そうした空間の演出も、剪定の役割なんです」

その考え方は、庭園の外にも広がっています。

「庭園で培った技術を都市の緑地管理にも生かし、その緑が人々の暮らしや環境の中でどんな役割を果たせるのかまで考えるようにしています 」

「緑と人をつなぐ」。都市の暮らしを支える仕事

栗原さんが大切にしているのが「緑と人をつなぐ」という考え方です。街路樹やマンションの植栽、公園の木々など、都市の緑は人々の暮らしと密接に関わっています。

「枝葉が伸びすぎると見通しが悪くなり、歩行者の邪魔にもなります。でも、都市の緑には暑さを和らげ、生きもののすみかになる役割もある。そうした機能を守りながら、安全性や景観とのバランスを考えて剪定しています。その場所の緑を、どうすれば人々の暮らしにうまく溶け込ませられるか。そこを考えることが大切なんです」

門松づくりのワークショップも、都市の緑地管理も、根底にあるのは緑を通じて人々の暮らしを豊かにしたいという思いです。

「造園は、木をきれいにするだけでなく、都市の環境や人々の暮らしを支え、文化を次の世代につなぐ仕事でもあります。その可能性をもっと多くの人に知ってもらいたいですね」

日本の新年を迎える、門松というおもてなし

ヒルトン東京お台場のエントランスに飾られた門松(過去の設置例)

新しい年を迎えるために、入口に門松を飾る。それは、歳神を自分たちの暮らす場所へ迎えるために受け継がれてきた日本の習慣です。

ヒルトン東京お台場でも、これまで年末年始にはエントランスやエントランスホールに門松が飾られ、新年を迎えるゲストを出迎えてきました。

東京湾を望むホテルで、日本ならではの正月飾りに目を向けてみる。その形に込められた意味や、受け継いできた職人の技術を知れば、何気ない新年の風景も少し違って見えてくるかもしれません。


 
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