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Tokyo Stillness
See Tokyo, differently.

History, Culture & Artisans 2026.08.28

公共トイレは、東京の美意識を映す。THE TOKYO TOILETを巡る、日常のアート

代々木深町小公園トイレ/坂 茂

執筆:小林雄大
写真:永禮賢 / Satoshi Nagare
提供:渋谷区 / Shibuya City

ヒルトン東京お台場を出て街へ向かっても、東京の快適さは途切れません。駅や商業施設はもちろん、街中の公共トイレにも清潔さと使いやすさへの配慮が行き届いています。海外から東京を訪れた人にとって、日本の“おもてなし”を身近に感じられる場所のひとつといえるでしょう。

なかでも渋谷区内17カ所に点在するTHE TOKYO TOILETは、公共トイレに建築やデザインの視点を取り入れ、誰もが快適に使える場所へと生まれ変わらせたプロジェクトです。世界で活躍するクリエイターたちが手がけた個性豊かな建築は、街の日常に溶け込みながら、公共空間の新しいあり方を示しています。

ホテルの外にも続く快適さと、その背景にある東京ならではの美意識を探しに、渋谷の街を歩いてみましょう。

公共トイレを、街の資産へ

神宮通公園トイレ/安藤忠雄

THE TOKYO TOILETは、多様性を受け入れる社会の実現を目指し、渋谷区内17カ所の公共トイレを16人のクリエイターがリデザインしたプロジェクトです。性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使える場所を目指して整備されました。

参加したのは、安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、坂 茂、佐藤可士和、NIGO®、槇文彦をはじめ、国内外で活躍する建築家やデザイナーたち。彼らが向き合ったのは、美術館や商業施設ではなく、誰もが日常的に使う公共トイレでした。

プロジェクトは2018年、柳井康治氏の発案・資金提供により発足しました。渋谷区の全面協力のもと、日本財団が維持管理を担い、2023年に全17カ所の整備を完了。2024年4月1日からは渋谷区が維持管理を行っています。デザイン性の高い施設をつくって終わりにせず、地域のインフラとして使い続けるための仕組みまで含めて考えられている点も、この取り組みの特徴です。

公共トイレには、暗い、入りづらい、清潔かどうか不安、といったイメージがつきまといます。THE TOKYO TOILETは、そうした不安を、建築やサイン、設備、光、素材などクリエイティブの力で解決しようとしています。完成した施設は映画『PERFECT DAYS』の舞台にもなり、その存在が広く知られるきっかけにもなりました。

渋谷を歩き、表情の異なるトイレに出合う

恵比寿東公園トイレ/槇文彦

THE TOKYO TOILETを巡る魅力は、性別、年齢、障害、国籍を問わず、誰もが快適に使用
できる公共トイレでありながら、17カ所がひとつの様式に統一されていないこと。都市の中に置かれた雨宿りの場所のような建物、降り立った宇宙船を思わせる建物、公園の遊具と響き合うような建物など、それぞれに異なる表情があります。遠目には、トイレだと気づかないものも少なくありません。

施設が点在するのは、渋谷駅周辺だけではありません。恵比寿、代々木、原宿、広尾、幡ヶ谷、笹塚など、舞台は渋谷区のさまざまな地域へ。にぎやかな大通りのそばに建つものもあれば、住宅街の公園や緑道の一角に静かに佇むものもあります。

建築だけを目的に足早に巡るより、周辺の街並みと一緒に眺めてみるのがおすすめです。公園で遊ぶ子ども、犬の散歩をする人、通勤途中に立ち寄る人。暮らしの風景の中で実際に使われているからこそ、公共建築としての姿が浮かび上がってきます。

17カ所すべてを一度に回ろうとすると、街そのものを見る余裕がなくなりがちです。原宿・代々木、恵比寿、幡ヶ谷・笹塚など、エリアを絞って数カ所ずつ訪ねれば、地域の空気と建築の関係をゆっくり味わえるでしょう。

目的地から次の目的地へ向かう時間も、この散策の一部。駅から公園へ続く道、住宅街の静けさ、商店の並び、人の流れ。公共トイレを手がかりに歩けば、いつもの観光では通り過ぎてしまう渋谷区の表情にも出合えるはずです。

美しさだけではない。誰もが使う場所のデザイン

公共トイレは、特定の誰かだけのためにつくられる場所ではありません。観光客、地域に暮らす人、子ども連れの家族、高齢者、車いすを利用する人、仕事中の人など、さまざまな身体や事情を持つ人が同じ場所を使います。

そのため、求められるのは外観の美しさだけではありません。入口が見つけやすいこと、迷わず使えること、外からの視線を気にせず利用できること、必要な設備へ無理なくたどり着けること。各施設の仕様は異なりますが、公式サイトによると、すべての施設で車いすでの利用が可能です。

西原一丁目公園トイレ/坂倉竹之助

素材の手触り、光の入り方、入口の向き、ピクトグラムの大きさ、手洗い場までの動線。普段は意識せず通り過ぎる細部に、使う人への配慮が表れています。小さな建築だからこそ、設計者の思想が凝縮されているのです。
 
公共トイレには、初めて訪れた人にも直感的に使えるわかりやすさが求められます。意匠に個性を持たせながら、入口の位置や男女別・共用の区分、設備の内容を迷わず伝える。建物に近づいてから利用を終えるまでを、ひと続きの体験として考えることも、公共空間のデザインには欠かせません。

清潔さを支える、見えない仕事

西参道公衆トイレ/藤本壮介

どれほど優れたデザインでも、つくられた瞬間だけでは公共空間として完成しません。トイレは毎日使われ、雨や風にさらされ、設備も少しずつ変化します。気持ちよく利用できる状態を保つには、継続的な清掃と点検が欠かせません。

THE TOKYO TOILETでは、日々の清掃に加え、定期的な点検や専門的な診断を実施しています。外壁や照明、換気設備まで状態を確かめ、汚れ方や使われ方に応じて清掃方法を見直す。公式サイトでは、建物だけでなく、清掃や点検を含むプロジェクト全体を「デザイン」していると説明しています。

また、映画『PERFECT DAYS』をはじめとするさまざまなアートプロジェクトも展開しています。トイレをデザインやクリエイティブの対象として発信することで、その価値への理解を高めるとともに、清掃に携わる人たちを通して、普段は見過ごされがちな仕事にも光を当ててきました。クリエイターが空間を設計し、清掃スタッフが日々整え、利用者が大切に使う。その積み重ねによって、公共空間の美しさは保たれていきます。

ヒルトン東京お台場の客室やパブリックスペースもまた、清掃や設備管理を担うスタッフの丁寧な仕事によって、心地よい状態が支えられています。美しさや快適さは、完成した瞬間に生まれるものではなく、日々の手入れによってつくられていくのです。

ホテルへ戻ると、日常の細部が違って見える

鍋島松濤公園トイレ/隈研吾

THE TOKYO TOILETを巡ったあとでホテルへ戻ると、館内の何気ない細部にも目が向くようになります。清潔な水回り、迷わず進めるサイン、照明の明るさ、荷物を持ったままでも歩きやすい動線。普段は意識せずに受け取っている一つひとつの工夫が、滞在の心地よさを形づくっています。
ホテルと公共トイレでは、規模も役割も異なります。それでも、使う人が迷わず動けること、必要なものが必要な場所にあることなど、快適さを細部から考える姿勢には共通点があります。意識されないほど自然な配慮が、安心感につながるのです。

東京の魅力は、ランドマークや話題の店だけにあるわけではありません。街角の小さな建築、清潔に保たれた公共空間、誰もが使う場所に込められた配慮。そうした日常の細部にこそ、この都市らしい美意識が宿っています。

THE TOKYO TOILETで出合うのは、目に見える建築だけではなく、その快適さを静かに支える人々の仕事です。ヒルトン東京お台場もまた、景色やデザインだけでなく、細部まで整えられた空間と、スタッフによる日々の積み重ねによって、心からくつろげる時間が生まれています。東京の街で感じた美意識は、そのままホテルで過ごす時間にも続いているのです。

THE TOKYO TOILET

設置エリア:東京都渋谷区内17カ所
公式サイト:https://tokyotoilet.jp/


 
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