Tokyo Stillness
See Tokyo, differently.
Interview 2026.05.27
お台場は“エンタメアイランド”へ進化できるのか。サッシャが語る、東京にまた来たくなる理由
日本の、ひいては東京やお台場の魅力を紐解く連載。記念すべき1回目に語ってもらうのは、ラジオナビゲーターとして、そして音楽、スポーツ、モータースポーツ実況など幅広いエンターテインメントの現場に関わるサッシャ氏。ドイツにルーツを持ち、日本で長く暮らしながら、この国の魅力を内外からも見つめてきた彼が、日本の価値としてまず挙げたのは、華やかさではなく、もっと根源的なものだった。そして話はやがて、ライブやスポーツ、レースといった体験が、東京を“一度訪れる場所”から“また戻ってきたくなる場所”へ変えていく可能性へと広がっていく。お台場・有明というベイエリアは、その変化を受け止める新しい舞台になれるのだろうか。
サッシャ氏プロフィール
ドイツ・フランクフルト生まれ、日本育ち。日本語・ドイツ語・英語を操るトライリンガル。J-WAVE「STEP ONE」をはじめ、ラジオナビゲーターとして幅広い分野の情報を発信するほか、モータースポーツや自転車ロードレースなどスポーツ実況、テレビ番組ナビゲーター、イベントMC、ナレーションでも活躍。カルチャーと知性を行き来する語り口に定評がある。2026年3月に気象予報士資格も取得。
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”安心して歩ける国”が、エンタメ体験の土台になる
「日本って、何も考えずに散歩ができるんですよ」
この言葉は印象的だった。ただ治安がいい、というだけではない。彼が語るのは、旅の自由度そのものを支える安全だ。たとえばロンドンやニューヨークのような大都市では、歩くだけで無意識に緊張が走ることがある。
「某アーティストが言っていたんですけど、アイデアって歩いている時に思いつくことがある。でも海外の多くの大都市だと、歩きながら常に安全のことを気にかけなきゃいけない。そうすると思考が遮断されるんですよね」
その点、日本では夜でも、知らない街でも、ふらっと歩ける。女性一人でも、子ども連れでも、旅先で過剰に身構えなくていい。その自由さが、旅の質そのものを底上げする。ライブやスポーツ、レースを楽しんだあと、その余韻のまま街を歩けること。それは、訪日客にとって想像以上に大きな価値になる。

エンターテインメントは、東京に“また来る理由”をつくる
サッシャ氏が日本の魅力を語るうえで挙げた象徴的な例が、意外にもアメリカのビッグアーティスト、テイラー・スウィフトの来日公演だった。
世界ツアーともなれば、どの都市でもチケットは争奪戦になり、価格も高騰する。だが日本公演には、海外のファンにとって明確な魅力があるという。
「日本はチケットが基本的に正規料金で買える環境。しかも安全で、グッズも買えて、ついでに快適に日本を旅行できる」
ライブだけではない。イベントの前後の時間までストレスが少ないことが、日本でエンターテインメントを体験する価値になっている。
そして、ここで重要なのは、エンターテインメントが“また来る理由”を生み出すことだ。
「東京タワーを毎年来る人はいないけど、F1なら毎年来るかもしれない」
観光名所は一度訪れれば満足することも多い。けれどライブやイベントは毎回違う。スポーツの試合結果も違う。レースも毎年違う。だからこそ、人はもう一度その場所を訪れる理由を持てる。
「今年はF1、次は野球、今度は別のライブっていうふうに、エンタメはリピーターの動機になりやすいんですよね」
つまり、都市の魅力は“名所の数”だけでは決まらない。何度訪れても違う体験が待っていること。その更新され続ける期待こそが、これからの東京の強さになっていく。

東京ドームで広がる、プロ野球を“観る”を超えた文化体験
その象徴のひとつが、東京ドームで実際に起きている変化だという。
「東京ドームに行くと、外国の人が結構来てるんですよ」
大谷翔平選手の影響もあり、日本の野球そのものに興味を持つ海外ファンが増えている。サッシャ氏自身も、野球をやっている息子を連れて、ジャイアンツ戦を観戦することがあるという。その際、後ろの座席に10人近く、南米あたりから旅行に来たお客さんが盛り上がっていたという。しかも彼らは、ただ試合を観るだけではない。
「“ジャイアンツ”じゃなくて、“TOKYO”って書いてあるユニフォームを買って、それを着て東京ドームの前で写真を撮っているんですよね。日本ならではの応援とか、独特の文化を見たかったんじゃないかなと思うんです」
そこには、単なる観戦を超えた文化体験がある。応援の仕方、鳴り物、ユニフォーム、球場の空気。そのすべてが、東京でしか味わえないものとして受け取られていたようだ。スポーツが旅の“ついで”ではなく、旅そのものの目的になっていく。

フォーミュラEがひらく、東京ベイエリア進化の入口
その兆しは、すでに東京ベイエリアにもつながっているという。代表的なものがフォーミュラEだ。
「フォーミュラEのいいところは、お台場という街中でレースをしているところなんです」
サッシャ氏は、その魅力を“モータースポーツの入口”と表現した。EVレースだから音が小さく、排ガスも出ないため街中で開催しやすい。しかも、ゆりかもめや電車でアクセスできるため、観戦のハードルが低い。
「通常、サーキットの多くは交通の便があまり良くないエリアにあります。でも『フォーミュラE』は電車で観に行ける。そこが大きいんです」
レース好きだけでなく、都市型のエンターテインメントとして気軽に触れられること。その意味で、フォーミュラEは東京ベイエリアという舞台にとてもよく似合う。そしてこれは、単発のイベントにとどまらない。お台場・有明が、東京のエンターテインメント体験を受け止める場所へと進化していくための、ひとつの入口でもある。
2026年7月25日、26日にフォーミュラE史上初めての日本でのナイトレースを開催。チケット購入や最新情報は公式サイトをチェック。
https://jp.fiaformulae.com/
お台場・有明に残された、“エンタメアイランド”への余白
では、その舞台となるお台場や有明は、どんな場所なのか。サッシャ氏はエンターテインメント目線で、このエリアについて強い可能性を感じていた。
「お台場って、実はエンタメハブとしてのポテンシャルはすごく高いと思うんですよ」
都心に近いのに、少し距離がある。レインボーブリッジを渡るだけで、景色も空気も切り替わる。しかも区画が広く、まだ余白がある。ライブ、アリーナ、レース、アート、スポーツ。点在しているように見えるコンテンツを、もっと束ねていける余地がある。
「将来、エンタメアイランドみたいな成長が、もっと期待できる場所だと思うんですよね」
この言葉には大きな示唆がある。今後、東京がリピーターを生む都市になっていくとしたら、その鍵のひとつはベイエリアの編集力にあるのかもしれない。東京の中心に飛び込むだけではなく、少し離れた場所から、体験の前後まで含めて都市を楽しむ。お台場は、その新しい東京滞在の形を育てられる場所でもある。
ヒルトン東京お台場は、進化するベイエリアの余韻を受け止める場所へ
その時、ホテルの役割も大きく変わっていく。ヒルトン東京お台場は、単に景色の良いホテルではないとサッシャ氏。
「ライブやスポーツ、レースやアートで体験した興奮を、その余韻とともに浸る絶妙な距離感にあり、持ち帰れる場所ですよね。次の体験へとつながる起点にもなるはず」
都心に近い。けれど、少しだけ距離がある。その絶妙な立ち位置こそが、お台場に泊まる価値にもなるだろう。
サッシャ氏の言葉を追っていくと、日本の価値は派手な何か一つでできているわけではないことがよくわかる。安全であること。独特であること。そして、何度来ても違う楽しみがあること。そのすべてが重なった先に、いまの日本の魅力がある。
そして、その魅力を“また来たい理由”へ変えていく場所として、東京ベイエリアにはまだまだ大きな余白がある。ヒルトン東京お台場は、その変化を最も近くで受け止める場所のひとつなのかもしれない。お台場がエンタメアイランドへと進化していくなら、ここはその熱狂の渦中ではなく、体験の余韻を静かに持ち帰るための場所になる。次に東京へ来る理由を、少し先の未来へつないでくれるホテルとして。




